広島地方裁判所 昭和38年(む)53号 判決 1963年3月06日
申立人 岡崎保雄
決 定
(申立人氏名略)
右の者に対する強盗殺人、強盗傷人再審請求事件について、申立人から当庁刑事第一部裁判長裁判官小竹正に対し、昭和三八年二月一五日忌避申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件忌避申立はこれを却下する。
理由
本件忌避申立の要旨は申立人は昭和三三年一二月二三日広島地方裁判所刑事第一部裁判長裁判官小竹正から、強盗殺人、強盗傷人被告事件について死刑の判決を受け、この判決は昭和三七年一一月九日確定したので申立人は右確定判決に対して再審請求をなしたところ、右裁判長裁判官小竹正から再審請求につき申立人に対して意見を求めて来たが、申立人は右第一審裁判所において同裁判長から犯罪の疑いだけで死刑に処せられたもので、また右原判決の審理に関与した裁判長が再審の審理をするのでは新しい証拠があつてもこれを取り上げてもらえない不公平な裁判をされる虞があるので本件忌避申立に及んだ、というにある。
よつて一件記録について検討するに、被告人岡崎保雄に対する広島地方裁判所昭和三二年(わ)第四五六号強盗殺人、強盗傷人被告事件は同庁刑事第一部において裁判官小竹正を裁判長として審理された結果、昭和三三年一二月二三日右被告人に対し死刑の判決がなされ、同被告人からこの裁判に対し控訴、上告ならびに判決訂正の各申立をなしたところいずれも棄却され昭和三七年一一月九日右原判決が確定したこと、および右申立人は昭和三八年二月一一日広島地方裁判所に原判決に対し再審請求をなしたところ同事件は同裁判所刑事第一部に分配のうえ審理されることになり同年二月一二日同部裁判長裁判官小竹正が右申立人に求意見をしたことを認めることができる。
ところで再審請求事件は確定した有罪判決に対し刑事訴訟法第四三五条所定の厳格な要件の下に再審請求の対象となるべき確定判決を言渡した裁判所(国法上の裁判所)が専属的に管轄をしてこれを審理するのを建前としているもので(同法第四三八条)、したがつて、右裁判所内において本件のように、たまたま訴訟法上の裁判所として原判決の審理に関与した裁判長が再審裁判所の裁判長又は裁判官として職務を執行することがあるのを当然予想しているのであり、かつ同法第二〇条第七号にいわゆる裁判官の職務の執行から除斥せられる前審の裁判とは上訴により不服を申立てられたその当該事件のすべての裁判を指称するにとどまり、原判決の審理に関与した裁判官が再審請求事件に関与しても、再審は上訴には属しない非常救済手続であるから、除斥の理由とはならないことはもちろん(最高裁決定昭和三四年二月一九日刑集一三巻二号一七九頁参照)、単にそれだけでは不公平な裁判をする虞があるものとは断定できないところであり、また同法二一条にいわゆる不公平な裁判をする虞があるとは単に忌避申立人自身がそのような疑惑をいだきまたは単純な嫌疑があるというだけでは足りず必ずその客観的な状況が存在することを必要とすると解すべきところ、本件申立人はこの点につき単なる疑だけで死刑に処せられたと主張するのみで具体的には何等主張疏明するところはなく、一件記録によるも小竹裁判官が不公平な裁判をする疑ありと認めるべき客観的状況は何等発見できないので本件忌避の申立はその理由がないものと認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 渡辺雄 田原潔 池田久次)